ダイヤモンド 買取のウソとホント
トラック・ドライバーの時間当たり賃金は他の業種に比べて低く、このためより多くの労働時間を費やさなければ生活を維持する賃金を獲得できない。
このため、いきおい長時間運転、長時間労働となる。
このように、トラック・ドライバーは低い賃金をカバーするために、みずから長時間運転を志望する傾向があり、交通事故の発生に関係してくる。
営業用トラックによる交通事故の原因として、しばしば問題にされるのが過積載である。
過積載とは、定められたトラックの最大積載を上回る重量の貨物を運ぶ行為である。
道路を走行するトラックの車両総重量は、車両の安全運行や道路・橋の維持のために、政府の規制によって最大値が決められている。
この最大車両総重量から車両の自重を引いたものが、貨物の積載可能な重量となる。
これを大幅に上回った重量の貨物を積載して走行することが過積載にあたる。
過積載は、走行する車両の重みで道路や橋にダメージを与えたりするだけでなく、トラック自体のブレーキのききが悪くなったり、走行時の車体の制御が困難になり、交通事故の原因となる。しかも制限を大幅に上回る貨物を積載しているため、いったん事故を起こすと重大な交通事故になる可能性が高い。
過積載は法律で禁じられているのにもかかわらず、いっこうに減らない。
トラック運送業者は違法行為と知りつつ過積載を行っているものが多い。
さらに過積載の問題が複雑なのは、単なるトラック運送業者だけの行為とはいえないからである。
過積載に荷主企業が介在する場合が多い。
競争相手が多数いて立場の弱いトラック運送業者は、荷主企業の違法行為につながる無理難題を受け入れざるをえない立場にある。通常、一般の貸し切りトラックは、ある特定の地域間で・車当たり何万円という形で運賃が決まる。
荷主企業はこうしてチャーターした営業用トラックに自分の貨物を運ばせるが、この時に荷主企業は法律で決められた許容範囲を超えた重量の貨物を運ぶように要求する場合がある。
トラックにより多くの貨物を運ばせれば、チャーターするトラック台数が減り、全体の支払運賃を削減できるからである。
過積載は、直接的にはトラック運送業者が行う行為であるが、荷主企業が介在するケースもあり、複雑な側面を持っている。
物流業者は、輸送サービス、保管サービス、荷役サービスを一般の企業に提供してきたが、これらの物流サービスを提供する物流業者は、古くから政府による規制の対象となってきた。
その意味で、物流業の展開と政府の規制は密接な関係をこれまで持ってきていた。
一般的に政府による規制は、経済的規制と社会的規制に分かれている。
前者の経済的規制は、事業者の市場への参入規制、輸送サービスの価格である運賃や料金に対する規制を含んでいる。
これに対して社会的規制とは、サービスの品質や安全性などを維持するための規制である。
トラック運送業者も含めたいわゆる交通産業では、交通事故の発生が常につきまとうために、安全性を確保する社会的規制が重要となっている。
1990年に施行された「物流二法」の中の「貨物自動車運送事業法」は、それまでの競争制限的な参入規制や運賃規制などの経済的規制を緩和する法律であった。
これと同時に同法は輸送の安全性を維持するための社会的規制を強化している。
この法律を策定した旧運輸省(現国土交通省)は、経済的規制の緩和と社会的規制の強化を次のように考えた。
経済的規制を緩和したために事業者間の競争が激しくなれば、安全性を無視した利益優先のトラック運行が行われるようになり、その結果として輸送の安全性が阻害される可能性が高まる。
このため輸送の安全性を確保する社会的規制を強化する必要がある1)。
そこで、「貨物自動車運送事業法」では、輸送の安全性を確保するためにどのような社会的規制を設定しているのか、主な内容を明らかにしてみよう。
に、トラック運送業者の事業所に「運行管理者」の設置を義務づけている。
この運行管理者は、ドライバーに対して安全運行を指導するもので、輸送の安全確保の面から過積載や過労運転の防止、ドライバーのチェック、休憩・睡眠施設の整備、乗務記録・運行記録の保存、事故防止対策の実施などを義務づけ、トラック配車の最前線で安全管理の責任を負う。
国家試験を受けてこの資格を取得する必要があり、トラック運送業者は保有するトラック台数に応じて、定められた運行管理者を配置することが義務づけられている。
トラック運送業者の違法行為を監視や取締りをする「適正化事業実施機関」が設置されている。
本来ならば行政(旧運輸省、現国土交通省)がこれを行う必要があるが、実際には限界があるために取締りを補助する機関が設置されている。
全国的な実施機関として全日本トラック協会、地方の実施機関として各都道府県のトラック協会が指名されている。
違反点数制度の実施である。
安全性を脅かす違反を繰り返すと、その内容に応じて点数が加算され、一定の点数に達するとトラック運送業者に処罰が課せられる。
具体的な処分は、違反点数の累積が20点を超えると違反事業者名の公表、違反点数の累積が50点を超えた営業所に事業の停止処分、違反点数の累積が80点を超えると事業許可の取消処分となる1。
違反行為をトラック運送業者に強要する荷主企業に対して措置が取られる。
荷主企業がトラック運送業者に対して過積載を強要して交通事故を起こした場合、国土交通省は荷主企業に対して過積載運行再発防止等のための協力要請書を出す。
この協力要請書が過去2年間にわたって2回出された荷主に対して一段と重い警告書を出す。
また、国土交通大臣は、過積載を依頼したり要求したりした荷主企業に再発防止のために勧告できる。
こうして「物流二法」の「貨物自動車運送事業法」では、経済的規制の緩和によって予想される輸送の安全性の喪失に対して社会的規制を強化した。
このような規制の強化によって、経済的規制の緩和によって予想される輸送の安全性が脅かされる事態を回避しようとしたのである。
1990年以降の過程を見ると、社会的規制が強化されたにもかかわらず、営業用トラックの交通事故件数は減少するどころか増加を続けており、社会に衝撃を与える痛ましい重大事故の発生を繰り返してきた。
結果的に、社会的規制は実際には有効に機能してこなかったのである。
現実の競争は予想を超えて激化し、それに誘発されて安全性を脅かす違反行為が頻発し、これに応じて営業用トラックの交通事故が増加したのである。
これまでの社会的規制が有効に機能していないことは、政策当局者自身が法律を改正してさらに社会的規制を強化したことに端的に示されている。
国土交通省は、2002年に「物流三法」の改正を行った。
この「物流三法」のうち、「貨物自動車運送事業法」では、1989年の同法の成立と同じように、経済的規制の一段の緩和と社会的規制の一段の強化を行っている。
同法における社会的規制の一段の強化に注目すると、この改正では、元請のトラック事業者の安全運行の責任が明確にされた。
先に述べたように、従来トラック運送業の業務は、元請と下請の関係のもとで行われる場合が多かった。
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